×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
突然の携帯のバイブが、章子を現実に引き戻した。
息子の龍一だった。
息子の龍一だった。
「おかあさん?今どこ?迎えに来てくれる?」
「うん」
「ゼミに着いたら、電話して」
「うん」
章子は、何も喋りたくなかった。路の歩道に植えられている山茶花は、二十七年前の風を運んできては、かき混ぜているようだった。まるで違う場所で年数も経っているが、同じ種類の花木は何かで繋がっているらしい。同じ風を感じた。
息子の龍一は、予備校に通っていた。本人に言わせると、第一志望の大学に行くのでなければ意味がない。と言う事で、どこでも受かった所に行けばいいと言う、健一の反対を押し切って無理やり浪人生になったが、最近では、同じ予備校で仲良くなった彼女がいるようで、勉強は二の次になっている。姉の優香には、あれこれ相談しているのだが、女の口が軽いというのは本当らしい。章子に筒抜けだったが怒る気にもならなかった。
章子は、一瞬、龍一が髪の長い女の子の手を引っ張って、物陰に隠れたのを見過ごさなかった。呆れて車を止めた。龍一は、さも偶然出てきたかのように、手を上げた。
章子の車は、アウディのA4、赤いクワトロだ。実家の父が死に、東京郊外の土地と家を売却して、茅ヶ崎市の香川に住んでいる弟夫婦の家に同居した母が、自分の乗っていた車を章子に譲り渡した。弟の家には、余分な車を置くスペースも無かったし、弟は、それで、遺産分けをあやふやにしたかったのだろう。合理的な弟夫婦は、父の車から家電、自転車、章子に来たアウディ以外全てを処分してしまった。実家に行って押入れをごそごそかき回しては、幼稚園生の時被っていたベレー帽が出てきたよ!懐かしいね。などと言うことは出来なくなったが、母親を引き取ってくれた事に感謝する気持ちのほうが大きかった。この辺りで乗るには、少し目立つ車だったが、あまり気にならなかった。
章子と目を合わせず、車にのった隆一は饒舌だった。後ろめたい事があると、昔からそうだったが、見え見えの行動に泣きたくなるくらい情けない気持ちに襲われた。生返事の章子に見透かされて冷たくされたように思ったのか、章子に背を向け窓の外を眺めていた。
高校生の時は、ボサっとした風貌で、
「もう少しなんとかしないと、女の子に相手されないよ」
と、よく優香に頭を小突かれていたが、
「うるさいよ」
とすぐに、部屋に閉じ籠もり、開かずの部屋になった。家族が寝静まるまで、出て来ようとしなかった。それが、一年も経たないうちに、すっかり、テレビに出て来る今時の若者になっている。少し遠慮がちに育ったせいか、165cmから止まったままの身長なのを本人は、随分と気にしているようで、少しでも背を高く見せようと髪を針鼠のように立てている。車の中は、龍一の整髪料で噎せ返るようだ。その香りで龍一との距離が深くなって一人の空間を取り戻した。ーつづくー







