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 結局、章子が家に着いた時には、優香も自分の部屋にいて、章子が風呂から上がり覗いた時にはもう眠っていた。健一もベッドの中でビールを飲みながらスポーツニュースを見ていて、こちらを見ようともしない。それが当り前で、誰もが無関心に生活している。いつからか、ただ寝る為だけの家に変わってしまった事を今日は寂しいと思った。仕事も充実してきて職場でも必要とされている実感も味わえる。多少自由になるお金を持つ事も出来た。そのお陰で、罪悪感を持つ事無く満子から高いクリームを買い、鏡の前で密かな喜びを持ち、主婦仲間とランチに行く。だけど、何か違う気がして、本当の自分の気持ちを誤魔化している思いが、微かに染みのように心に付いて消せなくなった。

 最近、斉木は、店によく手伝いにやって来た。気のせいか少し生き生きとしている。花にはすごい力があるから、これだけの花に囲まれていたら軽いうつ病ならすぐに治してしまえる。それは紅屋に勤めてから得た大きな収穫だ。章子も花に癒されているから、斉木の変化がよく理解できた。
「いたたた!あっ、血が出た!」
「このくらい何でもないよ」
社長は斉木にティッシュの箱を渡した。
「ほら、拭いておきな」
まるで子供扱いだった。ナイフで薔薇のとげをとっていたのだが、こんな様子を見ていると社長はただ斉木の絵が好きで応援しているだけで、男と女の関係ではない事が分かってきた。同士という感じだろうか、不思議と紅屋を尋ねてくる社長の知り合いは、皆少し時代がかっていて、かび臭いような、古めかしい屋根裏部屋にある埃を被った厚い本のような人ばかりだった。果林に言わせると、魂の年齢が古いということだった。

 斉木は、店が暇な時は、「千分の一セントラルパーク」でダボ、ラボと遊んでいる。社長の息子は自分の替わりがいてくれて、気に掛けなくて好きに出来るのを喜んでいる風に海外青年協力隊の説明会に出掛けたりしている。

 ある日、配達に出掛ける章子が公園の前を通り掛かったとき、斉木と立ち話をしている老人を見掛けた。斉木と同じ匂いがする老人は、鋭い目つきをした只者ではないオーラを出していた。
 夕方、公園で見掛けた老人の素性を問うと、かなり有名な画家「尾崎 栄」で確かに誰もが知っているかもしれない。軽井沢に彼の美術館が建てられている。章子は絵を見たことはない。斉木の話だと、幻想的で誰もが好む絵だという。

 早速インターネットで検索した。軽井沢の美術館は改築工事で休館になっている。落胆の気持ちと諦めきれない思いで検索していくと、尾崎栄の絵が桐生の小さな画廊に飾られているのが分かった。画面に現れた絵の不思議な空間に風が吹くのが見えた。共鳴という言葉が浮かんだ。

 仕事に出るようになってから、疎遠になっていたつや子に電話を入れた。つや子は、面倒くさいという理由から、携帯を持たないでいたので、簡単にメールで連絡が取り合えない不便さがあったが、深く相手の気持ちを感じながら、誤解も生じず話せる良さもありだとダイヤルプッシュした。どうしても、尾崎栄を見掛けた時のオーラを伝えたかったから、きっと、つや子なら同じことを感じられる仲間と思っていた。
 思いの一つも違わず伝わった。また、胸の真中に麻薬が注射されて体中に広がって行く気がした。深い喜びに震えた。
つや子が違う繋がりを尾崎と持っていたのだと後に知るようになるのだが・・・
 麻薬は一人だけの世界を作り、回りを見えなくしてしまった。それほど強烈な麻薬で、魂が共鳴し深い闇に引きずり込まれ身動き出来ない喜びを味わっていた。身体と魂が分離して、抜け殻の身体が家族の前に曝け出された。家族の気持ちを思いやる事も寂しいと感じた思いも跡形も無くなっていた。

 急速に、章子と斉木は近づいていった。しかし、それも男と女ではなく同志だ。配達の車の中で、大学での尾崎栄の授業の様子や斉木のアトリエの様子を聞く時間が嬉しかった。社長も斉木から貰うそんな時間を大切にしているのだな、中世的な斉木が、現実の世界ともう一つの世界を行き来する道案内人に見えた。斉木のアトリエの行ってみたいと言った。それは待っていた時間のように自然に実現した。

 「たぬきの通り道につき注意!」の立て札がある狭い舗装のされていない道を奥に入っていくと、確かにたぬきが住まいにしていそうな自然の林が現れた。その奥の方に古い木造の平屋が見える。斉木は、林の前に配達用の軽トラックを止めた。トラックの荷台から胡蝶蘭の鉢を下ろし、章子を促し林の中を歩いた。木造の家は近くで見ると人が住めるとは思えないほど古ぼけている。ガラスのはめてある木の戸は、簡単には開かない。
「先生!早く胡蝶蘭セットしてくださいよ。絵が進まなくて困ってしまうわ」
「おまたせしました。この辺りでいいかな」
斉木は石膏とバイオリンが置いてある机の真中に置いた。ここが、アトリエだったのか、その時気がついた。前の胡蝶蘭の花が終わってしまって茎と葉だけの姿で隅にやられていた。ここも埃っぽく、かび臭い古い魂を持っていた。生徒のコリノは五十過ぎで、ビーナス誕生のふっくらしたビーナスのようであり、また、スペインのフラメンコダンサーのようでもある。つや子と似ている空気を持っているがつや子は、暗い場所を好み人の後ろへと下がるが、コリノは、明るいライトを浴びて前に前に胸を突き出し、光と影の二人は対で一つの人間をなしている。当然、二人は面識もなく全ては章子の中での想像でしかないが、それが現実だと実感できた。

 つや子を連れてきて、コリノと会わせようとしたが、気乗りがしない様子で何かと理由を付けては断ってきた。その頃から、つや子は何か重たいものを抱えているようで、益々暗がりへ閉じこもりがちになっていった。 -つづくー
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CIMG1954.JPG

















 今回も 素敵なみなさんと羽子板のお正月飾りを作成中の様子です。

 CIMG1957.JPG


















 羽子板をワイヤーで 作りました。 ワイヤーの先がセーターに刺さって

 しまい (笑)  またまた楽しい時間を ありがとうございました

CIMG1958.JPG


















                                                                                                       12/20
CIMG1953.JPG

















  久しぶりで hisae chan がレッスンに

 クリスマスアレンジとお正月のアレンジを 作っていきました。

 レッスンに来始めて 一年が過ぎてしまいました。偶然にも似たような

 環境だったりして 一回りも年下の彼女との おしゃべりは共鳴とか

 共心とか言う言葉が ぴったりかな  もう一度振り返って また

 納得している私です。             12/16
 健一が珍しく飲んで帰ってきた。機嫌がいいのだか悪いのだか。義母の病院に行ってくれる事を感謝したり、章子が短大を出ているからとおれを見下していると言ったり、仕事に行き出して龍一の仕送りが楽になった。と言っておいて、すぐに、やり手の女社長に良く似てきた、顔も・・とか言って鼻で笑ったり、全てが本音だろうが不愉快だ。スーツのままベッドに倒れて笑ったりフンと手を払ったりしているので、章子は、健一を放って龍一の部屋で寝た。社長は、犬に例えるとフレンチブルドッグで小さくて小太りの体型も似ている。それにパーマのかかったショートカットの髪を乗せて、マゼンタ色のセーターを着せれば、アメリカのホームドラマに出てくるハイカラなおばあちゃんのイメージがある。社長を思い浮かべながら、健一は章子に何か言いたい事があるのを誤魔化して嫌味を言っている、何が言いたいのか考えたらなかなか眠れなかった。

 その夜は、優香も帰って来なかった。朝起きてすぐに優香のベッドに座り、部屋中を見回しながら優香の携帯を鳴らしたが、すぐ留守電になってしまい繋がらなかった。連絡よこすようにメールを入れて朝食の用意を始めた。健一には、飲み会の後友人の家に泊ってくると連絡があったと言っておいたが、厳しさと無関心さを持ち合わせているからなのか、夕べの醜態が気まずいのか、新聞から顔を上げようとしない。章子は健一の気持ちを理解する事を放棄して仕事に出掛けた。

 優香からメールがきたのは、赤城山の麓の業者に、テラコッタの鉢を仕入れに行った帰りの車の中だった。自動販売機のホットレモンを買いに車から降り携帯を開けた。辺りは薄暗くなってきていて優香のことを忘れかけていたが、何の言い訳もなく今日は早く帰るというメールで、今頃急に、手ががくがくしてきた。良かった。最近物騒な事件も多いし、今日は章子も早く帰ろうと車を飛ばした。

 紅屋に着くと、社長が菊の花が入っているバケツを、冷蔵庫から重そうに引っ張り出していた。果林もソテツの大きな葉を水切りしている。
「何かあったの?」
「うん、突然、まぁ葬儀は大抵突然だけど、結婚式用のテラコッタのアレンジと重なったのよ」
果林は、社長のパニックを少し楽しんでいるように言った。
「だけど、息子は長野の花業者の視察とかに行っているし、大丈夫かな?」
「あれが、来るらしいよ。さっき電話していたから。運ぶくらい出来ると思うよ。」
果林はにやっと笑った。
早く帰ろうと思っていたが無理のようだ。章子は、仕入れてきたテラコッタの鉢にオアシスを詰め出した。小さいけれど、百鉢作るにはかなり時間がかかりそうだ。健一と優香に夕食を各自済ましてくれとメールを入れておいた。
 社長のくわえタバコで葬儀の花を活ける姿は、大胆で芸術的だ。小さい体が何倍にも大きく見える。
「そこの蘭が何本あるか、数えておいて!足りなかったら借りてこないとだから」
テキパキと指示もしている。
「あの、僕は何をしたらいいのでしょうか?」
のそっと現れた斉木が果林に問いかけた。すかさず社長が
「出来た花からバンに積んでもらうから、まだ座っていて」
いつもより強い口調に斉木も居心地悪そうに、椅子に腰を半分浮かしたように掛けていた。社長は斉木を気に掛けてちらちら見ていたが、
「テーブルの上にドーナッツの入った箱があるでしょ。開けて好きなものを食べていて」
と母親が子供に言うように言った。それでも、斉木は固まっていた。その姿は映画で
見た「戦場のピアニスト」の主人公のように見えた。   
何かに追われて怯えているようだ。
いつまでも章子も斉木を気に掛けていても仕方ない。自分の仕事に没頭した。活け込みが終わると、後は社長と斉木で積んでおくからと章子と果林は帰された。こんなに遅くなる事は殆どないが、主婦の仕事としてはやり過ぎの気もした。

 従業員の駐車場は店から少し離れた空き地で、そこに行く途中に公園がある。自然に伸びた大きな樹があちらこちらにあり、周りは夾竹桃が垣根のように植えてあり、その後ろに桜の樹が並んで植えてある。小さな森の向こう側を流れる広瀬川は、つや子の家の裏に繋がっている。その公園に「千分の一のセントラルパーク」と名前をつけて、仕事の行き帰りに公園の中を通り抜けるのを楽しみにしている。

 ダボとラボもその公園が大好きで、忙しくてかまってもらえないと誰にも気がつかれないように、二匹で公園に遊びに出掛けてしまう。そうすると必ずご近所の方が店に顔を出して二匹が公園で遊んでいる事を教えにくる。優しそうな言葉を使っているのだが口調は強く、子供に何かあると困るから、しっかり管理しておけと言わんばかりの態度なものだから、社長はいつまでも自分から、ご近所に溶け込まないところがある。
                             -つづくー
CIMG1951.JPG


















CIMG1952.JPG


















 学生時代の同級生が 偶然 近くに住んでいました。

 中学校の英語の先生で なお且つ 3年生という事で

 なかなか レッスンに来れませんが こんな素敵なリースを

 作って行きました。これからは 食事でもしながら ゆっくり

 のんびり 楽しみながら お花を作っていきたいね!と

 おしゃべりしました。            12/14
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