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優香は、最近、章子によく似てきたと言われるのを、嬉しいと言っていた。
「ちょっと、小太りだけど、ショートヘアが似合っているし、仕事が出来そうなヒールの靴はいてスーツがぴったり。中学の同級生でさ、お寿司屋の見習いをしている久保井いるでしょう。アイツなんて、おかあさんの大ファンでお寿司ご馳走するから、連れて来てってうるさいよ」
本人は、中肉中背だと思っているけど、小太りの体型もよく似て来ました。と言ってやりたい。もう、二十五歳なのだから、ボーイフレンドの一人くらい居ても何の事はないが、明日、龍一を問い詰めてみようかな。まあ、いいか。放っておこうか。章子は、物事を深く考えない事にしていた。長い結婚生活で身につけた技だと思っている。
翌朝、ゴミ出しで、満子に会った。満子は、高校生の娘の洋服でも来ていたのか、真っ赤なフード付きのセーターのファスナーを無理やり閉めて、若作りをしている分余計に四十三歳より老けて見える。
「新聞を出す人がいるの?子供会の廃品回収に協力してあげればいいのにねぇ」
満子は、ビニール紐で縛ってある新聞紙を人差し指でめくり、濃紺のフリースパンツのポケットで拭いている。その指の匂いをさり気なく嗅いだ。あっ!またやった。満子は、必ず鼻で確かめる。前世、犬だよ。
「ねえ、章子さん、なんだか、皺少なくなったし、小顔になったよ」
「そうかな?」
「今度ねえ。社長から、高崎支部を任されることになったのよ」
章子の返事など聞いている様子もない。
「今、サロンになる場所探しているから、来月オープンしたら来てね。あっ、家に居ないと。サロンに置く荷物が届くから。じゃね」
朝の通勤の車で、なかなか通りを渡れないでいた満子は、寒さのせいか足踏みして、そのまま走って、コンクリートで打ちっ放しの近代的な家へ入っていった。満子には昭和三十年代の空気がある。土手の上を自転車に乗っているのが妙に似合っている。エステサロンといい、化粧品の販売といい、デザイナーに設計してもらった住まいといい、満子と似合わない物ばかりだ。服装だけが、唯一、満子らしかった。そんな朝早く宅急便が来るわけないだろう。満子は、何から何まで自分が章子より上でないと気が済まないようだ。サロンの開店で優越感に浸り、自信に満ち溢れていた。必ず満子と話をすると悲しい気持ちになる。
つや子に電話を入れた。章子に何も用事がなければ、遊びに来ないかと誘ってきた。昨日、手作りのいなり寿司とだし巻卵でご馳走になったばかりだからと遠慮したが、長電話しているより行き会ったほうが早いよと、結局行き会う事になる。つや子が言う通りにシナリオが進む。つや子と係ると悲しい気持ちが消えてしまう。依存していたい自分とそれで由と出来ない自分との比率が自立の方に片寄ってきている気がしている。
赤いアウディで高速道路の側道を走った。寒さは苦手だが、暖かい車の中から見る冬の景色は、魂を振るわせる何物かが宿っている。右手に見える赤城山は、雪雲で覆われていた。行く先も雪雲が広がり、隙間から差し込む光のオレンジ色が暖かく、周りの景色を懐かしい景色に変えてくれている。ーつづくー